内容
〈心的現象を科学的に解明しようとする場合、われわれは“心的なるもの”をさよざまな学問的方法や学派の眼鏡をとおしてみようとする。しかしこうすると、“心的なるもの”はたちどころに、相互にほとんどつながりのない無数の側面・局面に分解してしまう。科学的・学術的な心理学、精神分析の諸流派、人間学、社会学、神経心理学、コミュニケーション理論、システム理論、その他多くの学問領城が、それぞれ「心」についての独自のイメージを描き出している。いわは「ケーキ」という全体のなかから自分達の方法で手に入れることのできるおいしいところだけを取り出しているだけだといってもよい。〉 ・・・・・・「心的なるもの」をめぐる現代の知的風土を辛辣に批判する著者は、ピアジェの発生的認識論、フロイトの精神分析、現代の生物学的精神医学を批判的に批承しつつ、横造主義以降のさまざよな思想的潮流、システム理論やオートポイエシスなどの科学基礎論を有機的に援用し、「心的なるもの」の解明に新たな視座を堤供する。本書はシステム理論を人間関係論だけでなしに、精神内過程の解釈にも応用することによって精神のシステムを情報理論的に考察する基盤を与えるとともに、従来まったく別のカテゴリーで捉えられていた「感情」と「論理」を相補的な概念として根本から捉えなおすことを提唱した労作である。人間の精神の正常と異常を契機とした最新の構神医学的人間他の表明であると同時に、現代の心の科学を知るための、きわめてユニークな入門書ともいえるだろう。