内容
モーツァルトを道案内に西欧肖像画の世界を散策する絵画エッ
プリニウスの伝える古代ギリシアの伝説に、コリントスの陶工プータデスの娘の話がある。彼女は恋する若者との別離を悲しみ、ランプの光で壁に映った恋人の顔の影をなぞって、その面影をとどめようとした。これが人類の絵画・彫刻の起源であるという。つまり、絵画の歴史は肖像画の歴史ともいえる。 西欧の肖像画は、モデルにとっても画家にとっても、もっとも社会的な要請を反映する芸術だった。ナポレオンやルイ14世の例をまつまでもなく、肖像画の目的・形式・表現を子細に分析していくと、その時々のヨーロッパ社会の人間模様を文字通り「絵解きする」ことができる。 本書は、西欧美術史の第一人者が、世に残されたモーツァルトの肖像画の謎を追いながら、古今の肖像画の傑作を紹介・絵解きし、肖像画のもつ奥行きと楽しみについて興味尽きない話題を提供するユニークな教養書だが、テーマ別に読み切りの15章を設けたエッセイ・スタイルなので、肩の凝らない読み物ともなっている。代表的な肖像画の写真も百数十点掲載されていて、見るだけでも楽しい。