内容
現在、生物の高次機能を作り出す分子メカニズムが次々と明らかにされている。その結果、遺伝子や蛋白質などの多数の生体分子が相互作用する制御ネットワークが、生命現象を作り出す根源だと分かってきた。これらの複雑で動的なシステムを解明するために、数理科学や計算機シミュレーションなどの理論的方法が期待されている。しかし、実験生物学を専門にするものにとって、数理科学や物理学などの理論的手法はまだ敷居が高い。また生物学に関心をもつ理論系の研究者にとっても、生物学研究についての適当な解説書はほとんどない。
このような背景のもと、生物学における新しい手法である理論生物学を解説し、紹介する目的で本書は執筆された。本書は二つの側面を柱として持っており、「生命現象の理解に適した理論的手法のレクチャー」、及び「最先端の理論生物学研究の紹介」を目的とする。学際領域であり発展途上である理論生物学を、できるだけ包括的に紹介するために、分担執筆の形をとっている。本書は4つの章から構成されており、第1章で理論生物学の基本的な考え方や数理的手法の解説を行う。続く三つの章で、生体分子制御(第2章)、細胞機能(第3章)、形態形成(第4章)、それぞれの生命現象に対する理論を紹介しており、全体として分子から細胞以上のレベルまでを対象としている。
実験生物学分野の学生と、数理科学や物理学など理論系分野の学生の双方が、興味を持てる内容を目指した。本書は、生命科学に関心を持つ多くの読者の興味をひきつけると確信しているが、同時に本書をきっかけにして、理論生物学分野そのものが活性化することを期待している。