コレクション日本歌人選<033> 細川幽斎
加藤 弓枝 著
内容
目次
01 今ははや心のままに積もるらし嵐の後の松の白雪 02 敷島の道の伝への末すぐに行く末守れ住吉の神 03 明石潟かたぶく月も行く舟も飽かぬ眺めに島がくれつつ 04 雲はらふ与謝の浦風さえくれて月ぞ夜わたる天の橋立 05 見るがごとくあふげ神代の鏡山けふあら玉の春の光を 06 老の浪あはれ今年もこゆるぎの五十といはむ限をぞ思ふ 07 軒ちかき梅が香ながら玉簾ひま求め入る春の夕風 08 霞むべき山の端遠くなりにけり曇りなはてそ春の夜の月 09 花鳥の色にも音にも霞のみ猶たちまさる春の明ぼの 10 花見にと出でたちもせず八重葎心にしげき春雨の空 11 夕されば雪かとぞみる卯の花の垣ほの竹の枝もたわわに 12 植ゑわたす麓の早苗一方になびくとみれば山風ぞ吹く 13 風の音村雲ながらきほひきて野分に似たる夕立の空 14 蝉の声さながらまがふ時雨かな立ちよる袖に杜の夕露 15 はるばると与謝の湊の霧はれて月に吹きこす伊根の浦風 16 灯を守りつくして更くる夜に窓うつ雪の音を聞くかな 17 剣をばここに納めよ箱崎の松の千歳も君が代の友 18 慣れなれし身をば放たじ玉手箱二世にかけぬ中に有りとは 19 九重に今日つむ袖の色も香も深き山路の菊の下露 20 色をうつし匂ひをとめて嬉しさや袂につつむ梅の下風 21 をさまれる御代ぞとよばふ松風に民の草葉も先づなびくなり 22 月今宵音羽の山の音に聞く姨捨山の影も及ばじ 23 白妙の月は秋の夜かくばかり越路の山の雪もありきや 24 一枝の花盗人となりにけり袖にくらぶの山の帰るさ 25 天の原明けがた白む雲間より霞にあまる富士の雪かな 26 仙人の住みかとやいはん乱れ碁の音して更くる灯の影 27 山おろしの絶えず音する窓の中にあやしく残る夜半の灯火 28 山をわが楽しむ身にはあらねどもただ静けさをたよりにぞ住む 29 西にうつり東の国にさすらふも隙行く駒の足柄の山 30 夕日影をちの山もと降り晴れてあたたかげなる雪の松原 31 惜しからぬ身を幻となすならば涙の玉の行方たづねん 32 東より越えくる春も隼人の薩摩路遠く立つ霞かな 33 春風におほふ霞の袖もがな散らさば花の憂きにやはあらぬ 34 君がため花の錦を敷島や大和島根もなびく霞に 35 慕ひきて願ひもみちぬ武蔵鐙さすがに遠き花の山路を 36 薄墨につくれる眉のそば顔をよくよくみれば三角なりけり 37 月に散る花とや見まし吹く風もをさまる庭の初雪の空 38 西の海やその舟装ひ疾くせなん秋暮れ行かば浪の寒きに 39 誰かまた今宵の月を三島江の蘆の忍びに物思ふらん 40 忘るなよ翼ならべし友鶴のひとり雲居に立ちかへるとも 40 浮海松を道の行手に拾ひてやあそびの浦の日を暮らすらん 42 解けて行く音や分くらん耳敏川氷の上の春の朝風 43 今は早ゆづりや果てん昔見し妹が垣根を閉づる葎に 44 古も今もかはらぬ世の中に心の種をのこす言の葉 45 藻塩草かきあつめたる跡とめて昔にかへせ和歌の浦波 46 君が齢限りは更に七種の菜をやかぞへん千世の初子と 47 朝日影いつのほどにか移りけんあから目もせず花に暮らして 48 誰もみな命は今日か飛鳥寺入相の鐘に驚くはなし 49 鶯の来なく砌の夕日影むらむらなびく窓の呉竹 50 武蔵野も果てはありなん行く行くもわが恋草の種を尋ねて 歌人略伝 略年譜 解説「和歌を武器とした文人 細川幽斎」(加藤弓枝) 読書案内 【付録エッセイ】細川幽斎(抄)(松本清張)