内容
妻と娘と三人で暮らすマイホーム。小さな幸せを手にしたかに思えた俊男だったが、いつしか希望は失われ……。そんな時、妻の静佳の顔が変わっていることに気づく。整形を繰り返す静佳の顔は、若いころに捨てた女・あゆみにどんどん似ていくではないか――。江戸時代に国学者・平田篤胤が著した『仙界異聞』。それは幼い頃天狗に誘われ仙境で暮らした童子・天狗小僧寅吉こと嘉津間が語った話をまとめたものだった。やがて嘉津間は師に呼ばれたといって忽然と姿を消すが、15年後に再び篤胤の前に現れて、15年の間に経験した魔境の出来事を篤胤に語り始めるのだった。天狗の千里眼が抉り出す、人間たちの業の深さ。時空を超えて語られる異色の短編集。