内容
布帛の一部を括って防染し模様を表現する絞り染め。凸凹や縮皺による立体的な効果を表す布は、インドが発祥地だとされているが、世界の各地で自然発生的に生まれたとも考えられる。中でも、日本では精緻きわまる技法が開発され、豪華な振袖や帯などに染められて女性の憧れの的となり、江戸時代には奢侈禁令が出るほどの流行を見た。有松・鳴海では百種に及ぶ技法を編みだすなど、変化に富んだ発達を遂げた。しかし、絞り染めの基本的な技法は、いたって素朴な発想によるもので、南米ペルーからは紀元前の絞りが、中央アジアの古墳からは6世紀の絹の断片が出土している。世界に発生し、また伝播していった絞り染めは、その土地のさまざまな慣わしやしきたり、祈りを込めて、風俗特有の絞り染めを誕生させた。発祥の地といわれるインドの「バンダナ」や「ラハリア」と呼ばれる技法の絞り染め、インドネシアでは、ジャワ島、バリ島、ロンボク島、など島々の風俗と結びついて、スレンダン(肩掛け、胸当て)や儀式の布に染められている。パキスタン、カンボジア、フィリピンなどの南アジア東南アジア地域。特に南太平洋のバヌアツで発見された特異な原初的な絞り染めも紹介。トルクメニスタン、シリアなど中近東の諸地域、モンゴル、チベットなどの毛織物やフエルトに染める防寒用の絞り、中国の少数民族による木綿の藍絞りなど中央アジア、西アジア、東アジアの諸国の絞りにも言及する。またアフリカは現在も絞り染めが行われている地域として興味深いが、ラフィア椰子の繊維を使ったり細幅の手織り木綿を使ったりして、棒や石、葉などを布に縫いこんで防染する方法が伝わる。大らかな技法は、大胆なデザインの布を生む。アフリカの布は、国というより部族によっても、それぞれまったく表現や技法が異なる。そして古代アンデス(現ペルー)の、長い眠りから醒めた古代の絞りも収載する。日本では、上代から連綿と続いてきた模様や絞りの技術を見ながら、現代まで発展してきた日本の絞り染めならではの歩みを検証する。世界各地の技法は、現在明らかになっていないものも多いが、その代表的な技法を紐解き解明していることは、著者なくしてはできないことで極めて注目に値することである。世界に目を注いだ絞り染めは、全24か国に及ぶ。世界の技を集めるだけでなく、絞りに及ぼす地球民族の風土と暮らしとの関係にも迫る画期的な書であるといえよう。