内容
市民社会のアポリアに挑む―― ベケット、ベンヤミン、ワーグナー、ゲーテ、ベートーベン…… フランクフルト学派の異端児、テオドーア・W・アドルノが彼らの音楽・文学への批評を通じて描き出した、近代市民社会における「人間性」概念の諸形象。 本書は、この概念のヨーロッパ啓蒙主義以後の変遷をアドルノの思想に寄り添いながら丹念にたどることで、市民社会の根源に孕まれているアポリアを剔り出す。 アドルノによる啓蒙批判、「人間性」批判の真の意図とは何か。 (「序論」より) 本書は、20世紀ドイツの思想家テオドーア・W・アドルノの残したテクストをもとに彼の議論を再構成しようとするものである。その際、そこに「人間性Humanität」の一語を赤い糸として織り込むことで、アドルノの歴史的パースペクティヴのもとに18世紀から20世紀に至るまでのこの語の変遷を多様な作家、作曲家、思想家との対話を辿ることを通じて跡づけることが目指される。それは同時に、アドルノ思想の今日性とともに、その著作の至るところで明示的に語られつつも、しかしその内実を見通すことの困難であった全面的カタストローフ以後の世界に現れるもの、彼によってユートピアとも無人地帯とも呼ばれた場所、希望の地でありまた絶望の果てに現れる不毛の風景でもあったものを新たに見出そうとする試みである。