内容
今日ほど健康と病いへの,そして医療への文化的・社会的要因の影響が注目される時代はない。文化人類学研究と医科学的研究の統合として発展してきた医療人類学は,グローバル化する現代社会において医療従事者に求められる「文化を理解し対処する能力」の基盤である。『ヘルマン医療人類学』は,「健康・病い・医療・文化」にかかわるあらゆる領域をカバーし,人類学の理論と世界各地の膨大な事例研究が平易な記述でまとめられ,1984年の初版刊行以来,世界40か国以上の総合大学・医科大学・看護大学で教科書として使用されてきた。最新の第5版では医療と文化をめぐる現代的な課題,すなわちゲノミクス,遠隔医療,移住や移民,HIV/エイズ,肥満と栄養失調,新しい医療技術の発展に関する章が加わり,まさにグローバルスタンダードとして完成された。セシル・G・ヘルマンのライフワークであり,一貫した視点から「医療人類学」の広大なフィールドを見渡す本書は,あらゆる臨床における患者理解の手引きとして,また現代の医療と文化・社会を考えるための重厚な入り口として参照されるべき大著である。