内容
わたしと那谷紗はまだ手をつないだままだったが、このままずっと谷に立っていることはできなくて、もうすぐ町に降りていくことになる。降りる階段は暗くて不規則だから、どこかで手を離すことになってしまうだろう。でもわざと手を離さない、という遊びを考え出して降りることもできる。新しい遊びを考え出した方が勝ちだ。
近づいたかと思えば遠ざかり、遠ざかると近づきたくなる。
意識した瞬間にするりと逃げてしまうもの――。
重ねたはずの手紙のやりとり、十年ぶりに再訪したはずの日本、そして私とあなた。
輪郭がゆらぐ時代のコミュニケーション、その空隙を撃つ7篇の物語。