内容
身近で手仕事的な感覚を通して数学的現象を体感したい、そしてその喜びを共有したいという参加者による勉強会「数学みえる化プロジェクト」の立ち上げから4年。その成果を北海道大学総合博物館の2022年夏季特別展示「感じる数学 Tangible Math ~ガリレイからポアンカレまで~」にて紹介することになりました。本書はその展示と連動した書籍です。本文には執筆者たちのモノづくりの経験が随所に生きていますが、展示会とは独立して成立しています。
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皆さんは今日「1秒」がどのように定義されるかご存知ですか?「1秒」は100億分の1の誤差で、セシウム133原子に関する周期をもとに定義されます。そして、この「周期」を用いるアイディアは弱冠17歳のガリレイが「時間」を「幾何学」に取り込む方法を振り子の周期に見出したことに端を発します。人類がはじめて「運動」に着手した記念すべき瞬間です。ガリレイが拓いた道は、ホイヘンス、フェルマー、ニュートン、オイラー、ラグランジュら多くの天才たちの仕事により大いに発展し、人類はそこから多大な恩恵を享受してきました。しかし、19世紀になるとこの方法の限界があらわになりました。この限界はどうなったのでしょうか?
本書の目的はこの、ガリレイからポアンカレに至るまでの数学発展の一物語をやさしく紹介し、著者達を感動させてきた(そしていまも感動させている)数学の魅力を伝えることです。本書を通して、無色透明な数学が見えるものとして感じられるようになることを願っています。
数学の専門家および高校の教員がバランスよく執筆し、一部でいささか高度な内容も扱いますが、科学や数学が好きな高校生が本書の内容の大部分を理解できるように書き方や説明に配慮しています。
各章では一つのテーマを扱い、まずどの数学者がどんな仕事をしたか言葉で述べ、それを補うように数式を用いた説明をつけることで、アイディアと考え方がわかるように努めました。比較的最近の理論およびその理論に基づいた実社会における最新の応用についても適宜触れました。数学に踏み込む節にはスペードマークが付いています。数学が得意な高校生は説明文と数式までぜひ読み込んでみてください。数学が苦手な読者はそれ以外の部分だけ読んでいただき、数学の世界の一端に触れてもらえたらうれしく思います。