著者紹介
ルース・バーナード・イーゼル(著者):(Ruth Bernard Yeazell)
1947-。ニューヨークに生まれる。1971年、イェール大学博士号(英語・英文学)取得。カリフォルニア大学ロサンゼルス校とボストン大学で教鞭を執り、現在、イェール大学スターリング・プロフェッサー・オブ・イングリッシュ。18世紀から20世紀の文学、ジェンダーとセクシュアリティの歴史、文学と視覚芸術の関係についての研究を専門とする。著書に、Fictions of Modesty: Women and Courtship in the English Novel, Yale University Press, 1991, Harems of the Mind: Passages of Western Art and Literature, Yale University Press, 2000, Art of the Everyday: Dutch Painting and the Realist Novel, Princeton University Press, 2009など。アメリカ芸術科学アカデミー会員。
田中京子(翻訳):(たなか・きょうこ)
1948年、東京に生まれる。津田塾大学学芸学部英文学科卒業。訳書 ボティックハイマー『グリム童話の悪い少女と勇敢な少年』(共訳、紀伊國屋書店、1990)ポーター『健康売ります』(みすず書房、1993)ハーン『美女と野獣』(新曜社、1995)クイン『マリー・キュリー』全2巻(1999)スモール『ナイチンゲール 神話と真実』(2003、新版2018)ヒッチングズ『ジョンソン博士の『英語辞典』』(2007)『世界文学を読めば何が変わる?』(2010)『英語化する世界、世界化する英語』(2014、以上みすず書房)ほか。
内容
教会のフレスコ画、貴人の居室を飾る絵画など共通の文化の中で限られた人だけが見ていた時代に「何が描かれているか」の説明は必要なかった。持ち運び可能なイーゼル画が距離的・文化的に遠い土地へ運ばれるようになると、その隔たりを埋め、絵の来歴を記録する言葉が必要になってくる。そして教会や王侯貴族の占有物だった絵が美術館の誕生とともに大衆に開かれると、絵にはますます言葉が必要とされていった。
初めてタイトルを自らつけたダヴィッド。言葉の力を信じ、タイトルから物語を想起させつつその物語を凌駕するイメージを描いたターナー。クールベ〈画家のアトリエ〉の長い副題にこめられた意味。音楽用語のタイトルをつけたホイッスラーの戦略。イメージを裏切るタイトルによって独自の不思議な世界を作り出したマグリット。そして、絵の中に取り込んだタイトルを分裂させたり半分消すことで言葉の従来の意味を揺さぶるジャスパー・ジョーンズ……
ルネサンスから現代まで、つねにせめぎあってきた絵画とタイトルのスリリングな関係を追う。