■ 待望の「ゴールドスミス・クレス両文庫所蔵
社会科学系学術図書データベース」の刊行にあたって
関西学院大学経済学部教授 井上 琢智
このように高度に情報化された社会にあっても、ゴールドスミス文庫とクレス文庫が所蔵する61,000点の書籍と440点以上の定期刊行物が西洋経済史や経済思想史研究者にとって宝の山であることは疑い得ない。それは、現在までにそのマイクロフィルム・コレクションが世界各国で販売され、日本でも、その一部購入も含めると35校の大学で所蔵されていることからみても明らかである。しかし、そのマイクロフィルムは資料保存といった図書館の視点からみると有益であっても、約1,200万頁もの資料から必要な文献を発見する作業は煩雑であり、ましてやその複写は利用者の視点から見るときわめて不便であった。
このような状況を一挙に打破してくれるのが、今回のこのデータベースの刊行である。その検索機能は、著者、書名はもちろんキーワード、分野、原本所蔵機関はもちろん、本文や索引にまで及び、その資料の印刷機能、画像の拡大・縮小・回転機能までついているとなれば、これまで読みやすいハード・コピーを得るためには多くの時間とテクニックが必要とされた複写がなんと便利になることか。
さらに刊行年、言語、挿絵などの限定検索も可能であり、著者名、書名、刊行年、刊行年逆順までの閲覧可能が加わるとすれば、ビブリオグラファーとしてもこれほどの宝の山は今は見つからないであろう。かつてW.S.ジェヴォンズの著作目録・翻訳目録を作成した際にかけたあの膨大な時間と労力は何分の一、いや何十分の一に減ることか。
このようにマイクロフィルムのままであれば、研究者が必要資料を検索し、必要な箇所を複写し、研究資料とするのがその利用の第一の目的であったこのゴールドスミス・クレス両文庫全体が、これら種々の検索機能が付加されたことによって、一つの巨大なテキストとして研究者の前に登場することになる。まさに、入手困難な原典の講読テキストとして存在したこの貴重な資料群が、新たな研究テーマを生み出すテキストとして研究者の眼前に登場したことになる。