4. 自然史博物館の活動と未来

コンサルタントとして

photo1980年代以来、博物館は自然史に関するコンサルタントとしての役割も担っています。例えば動物学部門は政府との契約により、英国の海岸に打ち上げられたクジラとイルカをすべて記録しています。これは、座礁したクジラ類の所有権を女王に与える古い法律に基いた慣習です。実際にはエリザベス女王が所有権を行使することはなく、博物館には死体を処理する責任があります。毎年平均50件ほどのこうした座礁が記録されており、これらの記録を元に科学者はクジラの群れの移動や個体数などについて知ることが出来ます。

フィールドワークに携わる科学者たち

現在、自然史博物館の多くの科学者は世界各国の様々な場所でフィールドワークに携わっています。彼等は現地の科学者や研究機関と共同して観察や収集、データの記録などを行っています。例えば、博物館の昆虫学者はノルウェーの科学者と共同で、小虫の個体数を測定することにより気候の変化を予知しようとする研究を行っています。ノルウェーの汚染されていない湖における過去15,000年の気候の変化を再構築することで、未来の気候の変化について予測することができます。
また自然史博物館の動物学者は、ビルハルツ住血吸虫症(bilharzia)と呼ばれる、主にアフリカで人体に極度の衰弱をもたらす病気との戦いに挑んでいます。この病気は、淡水産の巻き貝に寄生する「住血吸虫」と呼ばれる寄生虫が、ある時点で巻き貝から水中に抜け出し、皮膚を通して人体に侵入して起こすものです。博物館の科学者は生化学的・分子生物学的技術を用いて寄生虫の種を特定し、病気と戦うための重要な情報を提供しています。

こうした活動により、博物館には、一般の人々、研究者、諸機関、政府機関、地方自治体、メディアなどから、助言や情報、種の識別などを求める問い合わせが、毎年何千件も来ます。

図書館の運営

図書館は主に博物館研究員が利用するためのものですが、来館者、Eメール、手紙、ファックスなどによる図書に関する問い合わせが年間約25,000件あります。現在ではインターネット上の蔵書目録で、予め蔵書を確かめてから来館することが可能になりました。図書館では出版社とも付き合いがあります。例えば、図書館の所蔵するジョン・グールド鳥類図譜をファクシミリ出版しているヒル・ハウス社などが挙げられます。
図書館の貴重資料の中には、現在では500万〜1000万ポンド(9億〜18億円)はすると思われるジョン・ジェイムズ・オードボンの『アメリカの鳥類』があります。手彩色銅版による435点の図版の大きさはおよそ 40 x 28 インチ(102 x 71 センチ)で、鳥が実寸大で描かれています。この本は、世界中で約120部が現存するといわれます。オードボン以上に、かけがえのなさにおいて貴重なのが、キャプテン・クックの世界探検で描かれた図譜です。その中にはシドニー・パーキンソンが描いた、ヨーロッパ人による初のカンガルー図が含まれます。
日本から来た珍しいものもあります。捕鯨の様子を描いた巻物など、この様なものは当館で1点しか所蔵していません。18世紀のものと推定されます。また同じく日本のもので、ハトを描いた絵もあります。鳥がすべて二羽ずつ描かれており、どれも微妙に異なっています。製作年代は不明ですが、おそらく19世紀ではないかと推定しています。単に装飾的な意図で描かれたのか、家バトの特殊な種だったからなのかはわかりません。

自然史博物館によるその他の事業

博物館には、一般に対して博物館に関する情報を提供する目的で、一般書・学術書の出版を行う出版部門があります。博物館はまた、館内の売店用に博物館のロゴ入り商品を企画・発注します。これらは優れた収入源となります。
さらに近年、博物館は個人・法人の会員を積極的に募集しています。自然史博物館はロンドン・ファッション週間や舞踏会などの商業イベントの会場として大変人気があり、これらの催し物は現在、博物館の重要な収入源になっています。

これからの自然史博物館

博物館の未来をめぐる様々な課題の多くは収蔵設備の問題と深く関わっています。科学的設備はすでに古く、現代の衛生・安全基準に達しません。「ダーウィン・センター・フェーズ1」と呼ばれる動物学部門の新しい建物を建てるために博物館では2700万ポンド(約48億6000万円)の資金を調達しなければなりませんでした。現在、薬液漬け標本2900万点を同センターに移動中であり、2002年には一般公開される予定です。同センターはコレクションの保存に理想的な環境管理がなされ、近代的な研究施設とITインフラストラクチュアを備えています。講演会の様子
昆虫学および植物学コレクションの新しい収蔵場所を作るにはさらなる資金が必要とされており、推定で5300万ポンド(約95億円)がかかる見込みです。
また自然史博物館には世界最大の自然史図書館があるのですが、書籍100万点、絵画や手稿50万点以上が、植物学、昆虫学、一般、地学、動物学の5箇所に分かれて収蔵されています。図書館員はこれらを1箇所に収蔵する新たな建物を希望しています。

以上がおおまかな自然史博物館の歴史と、展示、研究活動です。

最後に自然史博物館の任務を記した言葉をご紹介します。
「比類ない収蔵品を世界第一級の展示、教育、そして科学的研究に用い、自然界への理解を深めること」


1. 自然史博物館の歴史について
2. 人気のある展示会場・イベントについて
3. 自然史博物館の内部について
4. 自然史博物館の活動と未来