知を鐙す11のまなび

第10回 磯﨑 憲一郎先生

小説とは何か?

小説とは、文字で書かれた伝達手段でありながら新聞記事や論文とは異なる、また、一般に理解されているような物語(ストーリー)でも、作者が込めたメッセージや教訓でもない。「文学作品は難解なもの、高尚なもの」といった権威主義的な小説観を取り払い、実作者=日々小説を書いている一人の人間の視点から、「そもそも小説とは、いったい何なのか?」という問題を、小説の起源から現代文学にまで触れつつ、考えてみたい。

日 時:2020年1月29日(水) 18:30~20:30
会 場:日比谷図書文化館 大ホール

磯﨑 憲一郎氏(小説家、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授)
1965年千葉県生まれ。2007年に「肝心の子供」で第44回文藝賞、2009年に「終の住処」で第141回芥川賞、2011年に「赤の他人の瓜二つ」で第21回東急文化村ドゥマゴ文学賞、2013年に「往古来今」で第41回泉鏡花文学賞を受賞。他の著作に「眼と太陽」「世紀の発見」等がある。1988年から2015年まで三井物産株式会社勤務。現在、文藝賞選考委員。

【磯﨑 憲一郎先生 影響を受けた「私の3冊」】

絶版

カフカ全集<1>

カフカ全集<1>

新潮社

[理由]
小説でなければできない表現を始めてしまった、二十世紀の小説から、三冊選ぶことにする。カフカは世界でもっとも有名な作家でありながら、ドイツ文学を専門に研究している学者でさえも「絶望的」「不条理」「悪夢的」「ユダヤ民族の悲劇」「官僚機構」などといった紋切り型の解釈に晒されている不幸な作家でもあるのだが、いっさいの先入観抜きに作品本体を読めば、じっさいには如何にそれが、豊富な運動性とユーモア、そして生への肯定に満ちているかを知ることができる。

変身

変身

新潮社

灯台へ

灯台へ

岩波書店

[理由]
「意識の流れ」という手法を使ったことで有名なウルフだが、この作品では、小説とは人間など登場しなくともじゅうぶんに成立し得ることを示している。第二部「時は行く」では、主人が不在となった別荘が十年という歳月をかけて、少しづつ朽ちていく様子が見事に描かれている。小説とは単に人間の内省を描いたり、同時代の社会的な問題を扱ったりするものだと思い込んでいる人にこそ、この作品を読んで欲しい。

品切

三人の女・黒つぐみ

三人の女・黒つぐみ

岩波書店

[理由]
長篇『特性のない男』で名高いオーストリア人作家の短篇集だが、ここに収められた作品中の、因果律や論理的整合性など軽々と乗り越える強引さ、平然と矛盾を併置する大胆不敵さこそが、一文一文の連なりから成る、小説という表現形式でのみ可能な達成なのだ。ほぼ百年前に書かれたこの作品は、私じしん今も仰ぎ見る、創作の導きとなっている。

【磯﨑 憲一郎先生 著書】

金太郎飴

金太郎飴

河出書房新社

電車道

電車道

新潮社

鳥獣戯画

鳥獣戯画

講談社

アトリエ会議

アトリエ会議

河出書房新社

赤の他人の瓜二つ

終の住処

終の住処

新潮社

世紀の発見

世紀の発見

河出書房新社

小説家の饒舌

小説家の饒舌

メディア総合研究所

肝心の子供/眼と太陽

【小説関連書籍】

教養小説、海を渡る

教養小説、海を渡る

音羽書房鶴見書店

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私は小説である

新しい小説のために

ディストピア・フィクション論

〈冒険〉としての小説

ポスト〈3・11〉小説論

モンタージュ小説論

フィクション論への誘い

私小説ハンドブック

文学効能事典

文学効能事典

フィルムアート社

実験する小説たち

名作への招待<日本篇>

幻想怪奇譚の世界

21世紀の世界文学30冊を読む

世界文学を読みほどく

小説への誘い

小説への誘い

大修館書店

まるでダメ男じゃん!

この名作がわからない

今を生きる人のための世界文学案内

最後の一文

最後の一文

笠間書院

小説の〈顔〉

小説の〈顔〉

翰林書房

近代小説の表現機構

アメリカ文学に触発された日本の小説

小説のしくみ

小説のしくみ

東京大学出版会

偶然の日本文学

〈変異する〉日本現代小説

ライトノベル・スタディーズ

例外小説論

例外小説論

朝日新聞出版