研究と論文執筆の際の倫理規定について
学術研究にまつわる倫理
学術研究にまつわる倫理には、主に研究そのものの手法や手順に関わる研究倫理、そして、その報告である論文の記述や内容にまつわる出版倫理があります。出版に際しても、研究倫理に適った研究を行ったことや、所属する研究機関そのほかの倫理委員会から研究の承認を受けたことを論文の中でも明記する必要があり、両者は必ずしも別箇のものというわけではありません
研究倫理
研究分野ごとに、人権や生命倫理、アニマルウェルフェアなどについての研究に関するさまざまな倫理的ガイドラインが設けられています。
→ 医学・薬学についての倫理規定
実験の対象にヒトが含まれる場合、ヘルシンキ宣言(「ヒトを対象とする医学研究の倫理諸原則」)や国際医科学団体協議会(CIOMS)の「人を対象とする生物医学研究の国際倫理指針」に沿った倫理的配慮が広く求められます。具体的には、正確な情報を与えられた上での実験への参加の同意(インフォームドコンセント)や、研究参加者の利益尊重、プライバシーの保護、危険の回避などの要件を満たしていることが研究を行う上での前提となり、遺伝子解析など、人間や生命の尊厳にかかわる研究についても様々な倫理規定や法令があるのです。
→ 治験登録
医学ジャーナルの多くは医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)による臨床試験登録に関する声明を受け、臨床試験・治験の登録していない研究については投稿を受け付けないとしています。日本国内の3つの臨床試験登録機関の協力体制JPRNも、WHOの定めた基準を満たす機関として登録されており厚生労働省のサイトでも、各登録機関の概要を含めた情報が公開されています。
( https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/inform.html)
→ 動物実験についての倫理規定
動物が対象となりうる場合は、動物実験に替わる実験を行う(Replacement)、実験動物の数を減らす(Reduction)、実験方法を改善し動物の苦痛を軽減する(Refinement)、という動物実験の3R原則が2005年改正の動物愛護管理法にも盛り込まれており、世界的にも飼育環境から現場での実験手法まで、動物が人道的に扱われているかを見る目は厳しくなっています。
→ 文化財等についての倫理規定
さらに、文化財の扱いや、文化的な意味を持つ資料や研究対象についても倫理的であることが求められます。文化財の研究・調査に用いる方法や素材などが、文化財自体や環境を損なわないものであることはもちろんですが、特定の文化において撮影や印刷が禁忌とされるような対象の画像の掲載を控えるといった異文化への配慮も必要です。
出版倫理
研究論文には、まず、上記のような手法、手続き上の倫理規定が守られている、しかるべき承認を得ているということを明記する必要があります。また、捏造、データ改ざん、剽窃、盗用、二重投稿等などについては作為の有無にかかわらず不正とされますから、論文著者は、意図せぬところで研究不正を行ってしまっていないか、しっかりとチェックした上で論文を投稿しなければなりません。自分の過去の論文の内容を部分的に使うことでも、二重投稿や剽窃に当たると判断されることもありますので、出典の明記などには注意を払いましょう。
→ 原著者資格(オーサーシップ)
誰を著者として記載するかも出版倫理に関わる問題です。 ゲストオーサー(著者としての役割を果たしていないのに著者リストに名を連ねている人物)、ゴーストオーサー(著者として論文に名を連ねるべきなのに著者リストにない人物)など、不適切なオーサーシップ(原著者資格)も倫理に反するとされます。オーサーシップについて、現在では国際医学雑誌編集委員会(ICMJE/International Committee of Medical Journal Editors)の作成したガイドライン、ICMJE Recommendationsの規定が多くの分野の学術ジャーナルでのスタンダードとなっていますので、これを参考にするのがよいでしょう 。
→ 利益相反(COI)
研究の客観性を保証するために開示すべき利益相反(COI/Conflicts of Interest)の情報を記入する書式についても、ICMJEの書式(http://www.icmje.org/conflicts-of-interest/)を踏襲するジャーナルが少なくありません。特定の団体や企業からの給与や謝礼、助成金、特許使用料、ライセンスなど、金銭が絡む利害関係の他、最近では、給与や報酬のない名誉職なども、研究にバイアスをもたらす可能性があるとして明記を求めるジャーナルもあります。詳しくはジャーナルごとの投稿規定に従わなければなりません。
→ 出版規範委員会(COPE)
倫理に悖る論文を掲載してしまうことはジャーナル側の信用も下がります。そうした可能性に出版社が適切に対応できるよう、1997年に設立された出版規範委員会(COPE/Committee on Publication Ethics)では、上記のような不正の可能性があった場合の対処の規範、助言をフローチャートの形式で提供しています。